さて、今年も2月です。早いですね。大和ミュージアムでは、今まで以上に興味有る企画を皆様に見て頂くために、一同頭を捻っています。3月から始まる第20回企画展は、海軍記録画・絵画によりたどる海軍の歴史、として、有名な海軍の歴史を飾る名画を公開します。中でも、日露戦争の日本海海戦の様子を描いた傑作「三笠艦橋の図」は、あまりにも有名ですが、このオリジナル作品は、横須賀の三笠の宝物として、今まで艦外への貸し出しはしていなかった物を、今回初めて大和ミュージアムでの公開を許可して頂いた作品です。また、江田島の海上自衛隊第1術科学校からも、初めて貸し出される作品をお借りしました。また、中村研一・琢二生家美術館から協力を頂き、今回初めて公開される作品の中には、中村画伯が、昭和12年に巡洋艦足柄で、英国のジョージ6世の戴冠式記念観艦式に参加するために渡英中、地中海マルタ島のイギリス海軍軍港で停泊中に、中村画伯が描かれた英国戦艦のスケッチもあります。
元来、絵画の歴史は、狩猟などの生活や戦争における勝利などを記録することから始まっているために、絵画の歴史にあっては、戦争記録画は、歴史画の一部として、大きな要素だったのです。このために、海軍が成立して以降のヨーロッパには多くの海軍や海戦に関わる歴史画が残されています。
日本で有名な作品としては、古いところでは元寇の様子を描いた絵巻物などがあり、また咸臨丸の太平洋航海の様子を描いた作品などもあります。しかし、本格的に海軍の歴史を記録するという意識で描かれた作品が現れるのは、やはり日清戦争ころからで、初めの頃は江戸の錦絵の伝統に添った木版の海戦画などが販売されました。その後、日露戦争後、海軍として、歴史画を残そうという意識が生まれ、以後多くの作品が描かれるようになったのです。このような中で描かれ、保存された貴重な作品を見る事の出来る機会は、あまり多くはないので、この機会に是非見て頂きたいと思っています。
この海軍記録画と近いものに、海洋画、船舶画といった分野があります。海は人間にとって世界との文化交流の道であり、船はその中心的な道具だったわけです。いわいる大航海時代を経験した西欧では、船に対する思い入れが強く、船と海を題材にした絵画作品は無数にあります。一方日本は、残念なことに造船技術の問題と帆走技術の問題から、国内航海と大陸沿岸との航海以上の大航海の歴史は少なく、従って海洋画、船舶画の伝統も、あまり育ちませんでした。船の画などについても、かつて技術者であり船舶画の大家であった、山高五郎氏なども、日本人の描く船の画は、船を知らないで描いている物が多い。と嘆いていましたが、広く海と船の知識が育ってゆけば、どんどん素晴らしい作品が制作されて行くと思っています。
海洋国家である日本にとって必要なのは、なにも造船技術などの科学技術ばかりではありません。海洋を巡る文化、絵画、文学など、総合的に発展してゆくことが必要なのではないでしょうか。