子どもの頃から、神田の古本屋めぐりを、一番の遊びと思っていたので、古本集めは、もう五十年をとっくに越えています。もちろん骨董的な古本コレクターなどではないので、集めるのは雑書ばかり、何でも興味がわくと手当たりしだい集めるのが私のスタイルです。古本の集め方には、著者で集めるのと、テーマで集めるのと、大雑把に2種類あります。私は両方です。

 第一は、船や飛行機の歴史などです。研究者ではないので、単順に趣味的な範囲ですが、根が図書館員ですから、集め方には力が入ります。本を集める時に、一番覚悟を必要とするのが・・(本を集めるのに、覚悟も無いですが)雑誌の収集です。雑誌は、基本的に全部集めないといけない・・。という強迫観念があり、これを集めだすと大変だなあ。と思うからです。小学生の頃から集めた雑誌で、揃えるのに一番苦労したのは、昭和7年に創刊された中学生向きの海軍雑誌「海と空」です。 

海軍雑誌「海と空」 小学生のころは、一冊数十円で買えたので、面白そうな号だけ、ポツポツ集めていましたが、中学生の頃に、よし、全巻揃えよう。と決意しました。そして、手帳に、全巻のリストを書き、入手した号を消してゆくという、気の遠くなるような作業を始めたのです。

 集め始めて気がついたことは、この雑誌には、無闇と増刊号が多いということでした。当然増刊も集めるし、汚いものは、綺麗なものが出たときには買い換えます。持っていない号は、とにかく汚れていても、破れていても集めて、後でだんだん綺麗なものと入れ替えて行くのです。昭和40年代までは、珍しくなかった「海と空」も、昭和50年代からは、だんだん見かけないようになり、収集のスピードも鈍りました。

 

困ったことに、こういった雑誌は、古本屋さんが面倒がって、10〜20冊が溜まると、一括で売る場合があり、束の中に1〜2冊欲しいものがあるために、全部買う、ということもよく有りました。そして、最後の2冊になってから、何年も増加が止まったままという時期がありました。

そこで、とうとう最後の手段に訴えることにしました。大先輩のAさんの書庫に、「海と空」が殆ど揃っているのですが、まだ10冊ほどが無いのです。私は2冊・・。ある日Aさんの家に遊びに行ったときに、書庫にはいり、この2冊を持って出て、Aさんに、これください。替わりにAさんの不足分全部をコピーして上げます。と言ったのです。Aさんは、首をひねっていましたが、戸高さんじゃ、しょうがないなあ・・と(多分しぶしぶ)OKしてくれました。こうして30年以上の作業が終わったのです。数日は、人生の目標が(それほど大げさではないですが)達成されたうれしさと、大きな目標を一つ失くした事で気が抜けていたことを思い出します。その後、全部を年度ごとに分けて、製本所に出して、合本にしました。本当は合本するよりも、そのままの形で保存するほうが良いのですが、以後の破損の恐れが無い方法を選んだわけです。

ちなみに、この雑誌は、昭和20年の1月号が最後で、2月号は遅れて、ようやく出来上がったのが3月初めになり、配本直前に3月10日の東京大空襲で焼けてしまったために、幻の本となってしまいました。今でも時折、焼け残った最後の20年2月号とめぐり会うことを夢想しています。

今でも私の携帯電話のメモ帳には、探書リスト、というページがあり、探している雑誌のリストが書いてあります。まあ、不治の病と言うのでしょうね。