平成31年4月24日からスタートした第27回企画展『海底に眠る軍艦-「大和」と「武蔵」-』は、当館所蔵の戦艦大和からの引揚げ品を公開したもので、多くの来館者の興味を引くことが出来ました。引揚げ品自体は爆沈した大和の一部であり、大和の姿を思わせるものではありませんが、本物の大和の一部を目にすることで、大和の悲劇、戦争の無残さが、現実のものとして迫ってくるのです。他にも、アメリカのポールアレン財団が継続的に探査をしている沈没軍艦調査の成果を、大和ミュージアムに提供してくれた中の、武蔵の現状などの動画も展示されています。
特に今回展示に加えた資料の中には、竣工間もない戦艦武蔵の写真があります。この写真は、戦艦大和の乗組員の遺品の中にあったもので、大和型戦艦の第一級の写真と思っています。
当初、この写真を見たときは、本当に驚きました。大和型戦艦の戦闘訓練中の写真は、今まで全く見たことが無かったために、その躍動感の溢れるシーンに見惚れたものです。
同時に、「いったいいつ何処で、どのような状況の中で撮影されたものかを調べなければならない」と思いました。まだ確実な結論は出ていないのですが、写真の中から分かる情報から整理しました。
①艦橋背面のラッタルの様子から、これは戦艦武蔵である。
②後部マストの中段、舵柄信号の、舵中央を示す白線の位置が、明瞭では無いが武蔵の位置である。
③後部マストのトップに黒いものが見えるが、原画を確認したところ、写真の染みであった。
④艦橋トップが白く塗装されていることから、昭和18年夏頃までの連合艦隊所属の期間である。
⑤後部艦橋横、飛行機整備甲板などに、かなり大きな物品が搭載されている。
⑥舷側に窓などの開口部が全く無い。
⑦主砲塔、副砲塔が旋回中である。
⑧甲板上の乗員が、全員白服である。
⑨武蔵の右舷遠方に2つの白煙が上がっている。
⑩手前左に写真を撮影した飛行機の胴体と尾翼が見えている。
写真から読み取れる情報は、この程度です。これを元に撮影時期を考えてみました。
①まず、竣工状態の武蔵が、大きな物資を搭載して航行したのは、昭和18年1月18日に、呉軍港からトラック島へ向かったときと考えられます。
②しかし、この時期の日本ならば乗員の中の士官は黒服の時期ですから、甲板上の人物が全員白服というのは疑問です。しかし、日本で冬でも、南方では士官も白の夏服を着るので、恐らくトラック島に近い海域と思います。
③もしもトラックに着いてからの訓練であれば、輸送物資と思われる搭載品は下ろしていると思うので、これはトラックに入港前の状態と思います。
④遠方の二つの白煙は、訓練魚雷を投下したときの着水地点を示す薬煙ですから、手前の飛行機は攻撃機で、可能性としては、丸い胴体の形状から、一式陸攻、或いは二式大艇と思われます。
⑤これが魚雷発射訓練であるとすれば、一番主砲塔の前に集まっている乗員は、訓練を見学している水雷関係の士官ではないでしょうか。砲術関係者は、当然対空戦闘訓練中です。砲塔が回っているのは、対空戦闘中であることを示していると思います。
⑥ここで悩ましいのは、カメラの位置が、胴体からかなり高い位置だということで、一式陸攻であれば、この位置に円形銃座を増設した22型ということになりますが、22型は、昭和18年1月では、初号機完成直後で、まだ量産には入っていません。或いは11型の操縦席後部上方からの撮影かもしれません。
⑦ニ式大艇であれば、丁度この位置に機銃座がありますが、ニ式大艇が雷撃訓練をしたか、疑問はあります。
⑧次に、二対の白煙の間隔が問題です。距離ははっきりしませんが、武蔵との位置関係から、7~80メートルと思います。一式陸攻は、魚雷を一本しか持ちませんから、二機での編隊雷撃と言うことになります。
⑨ニ式大艇は、魚雷二本を同時に発射できますが、そうすると、この間隔は大きすぎます。
と、散々悩んだ挙句、現在のところの判断としては、
昭和18年1月22日、トラック到着直前に、陸上基地の一式陸攻が、武蔵に対して雷撃訓練をした際に撮影された写真。と推定しました。一式陸攻は、二機編隊で、同時に魚雷を落としたと思うので、写真を撮影した機体の魚雷は、右側の白煙ということになります。投下位置としては、魚雷は命中と判断されたのでは無いでしょうか。
最後に、この写真の一番の謎は、舷窓ばかりか、換気口なども完全に塞がれていることです。大和では最後まで残された、上甲板の幹部の部屋の窓も塞がれていることです。しかも、他の軍艦のように、舷窓の上から鉄板を溶接したような影も無く、竣工時から舷窓はなかったようにも見えます。
長々と、細かなことを書きましたが、大和型戦艦に関しては、まだ分からないことばかり。と言うことです。「大和の海底調査の際に、25ミリ連装機銃が発見されて、販売中のプラモデルは全滅ですね・・。」と思いましたが、今回の写真の発見で、武蔵のプラモも全滅のようです。
企画展は始まったばかりです。皆さんも一度来館して、じっくり企画展をご覧ください。